何かを成し遂げたいと願いベルリンへやってくるのは、何も極東アジアの私たち日本人だけではない。欧州人であれば長期滞在ビザが不要で、生まれ育った国と行き来するにも近くて楽というメリットは確かにあるが、それ以外の点において“外国人”であることに変わりはなく、トライ&エラーを繰り返しながらこの街で踏ん張って生きているのだ。

今回は、真の努力家であり、挑戦者である<Polish Thursday Dinners>のオーガナイザーJulia Bosskiへインタビューを行った。華やかな世界をイメージしてしまう裏で抱えてきた苦悩や苦労、光栄なことに私も招待してもらったワルシャワでのスペシャルイベントについてなど、貴重な事実とともにお届けする。

世界の片隅で活躍する女性クリエイターたち』第二弾となります。是非ご覧下さい。

世界の片隅で活躍する女性クリエイターたち【ポーランド・ワルシャワ/オーガナイザー編】 column-kanamiyazawa-julia-bosski-2

Julia Bosski「食を通じてポーランドカルチャーを伝え、世界中のクリエイターたちが国境を越えてコミュニケーション出来るサロンとして提供したい。」

インタビュアー・宮沢香奈(以下、Kana) まずは、7月にワルシャワで開催された<Polish Thursday Dinners>スペシャルイベントに招待してくれてありがとう!! ポーランドにはずっと行きたいと思っていたし、単なる旅行ではなく、ステキなパーティーとホテルと人との出会いが本当にステキだった。改めてお礼を言わせて下さい。

▼「Polish Thursday Dinners at Hotel Warsaw」の記事はこちらから。
http://irodori-x.com/column/5451/
https://senken.co.jp/posts/kmiyazawa75

Julia Bosski(以下、Julia) 喜んでもらえて良かった。実は、あのイベントが、私にとってポーランドでの初めてのオフィシャルイベントだったの。

Kana そうなの?ずっとベルリンで開催していたのは知っていたけれど、それよりもっと前にポーランドでも開催していたんだと思っていた。

Julia いいえ。<Polish Thursday Dinners(以下、ポーリッシュ・ディナー)>は2013年にベルリンでスタートさせたの。スタイリッシュでクールな人たちが集まっていたサパークラブ(*ヨーロッパではポップアップ式の晩餐会であり、社交場の一つ)で素晴らしいシェフDon(Donald Borkowski-Blaszczyk)と出会って、自分でもオーガナイズしてみたいと思ったのがきっかけね。

Kana なぜベルリンでやろうと思ったの?

Julia ベルリンにはもう8年も住んでいるんだけど、来た当初ポーランド人に対してステレオタイプなイメージしか持っていなかった。女性の仕事と言えばクリーニングレディーで、食べ物と言ったらピエロギと言った一辺倒な感じで全然理解されてなかった。だから、もっと美味しい食べ物やワインやお酒もあるし、おもしろいカルチャーがあることを知って欲しかった。そう言った理由があるわ。

Kana 私たちアジア人に対しても分かりやすいステレオタイプなイメージはあるけど、欧州人同士でもやはりあるものなのね。

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Julia そう。だから、ポーランドの古き良き伝統を尊重しながら現代的な解釈のもとポーランドの良さを伝えれるように「Polish Thursday Dinners」と題したプロジェクトを始動したの。毎月会場を変えて開催してきたけど、これまでにベルリンのギャラリー、コンセプトストア、クラブ、ウェアハウスなど、本当にいろんな場所でやってきたわ。ポーリッシュ・ディナーは一切広告を打たずに口コミだけで徐々に人が集まるようになっていったし、スポンサーも付けていなかったの。

Kana それで、どうやって資金を調達してたの? 実は、これはずっと聞きたかったことなんだけど。

Julia もうそれは本当に大変だったわ!! 始めた当初はもちろん儲けは一切なかったし、ベルリンの人々は高い値段設定にしたら絶対に来てくれないのは分かってた。だから、最初は確か20ユーロか25ユーロに設定して、10人のゲストに、ポーランドのオーガニック食材を使ったディナーコースにホームメイドのウォッカを振舞ったりしたの。

Kana それは安過ぎるし、確実に赤字よね(笑)。

Julia そうね。でも始めた当初はそれでも良かった。自分でオーガナイズすることによって学べることがいっぱいあったから。1年ぐらいで初期のシェフが離れて、しばらく私自身がシェフまでやってたこともあったから!(笑)

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Kana すごすぎる(笑)。私はてっきりポーランドの親善大使か何かで政府から支援を受けているんだと思っていたわ!!

Julia 私が?! でも、いずれそうなるはずだわ!!(笑) 

Kana だって、ジュリアからワルシャワに招待された時に、5つ星ホテルやミシュランシェフによるディナーが無料だなんて普通じゃないから、最初ウソだと思ったわ(笑)。

Julia あれが実現出来たのは、やはり自分の国であるポーランドだからという理由が一番ね。ベルリンではそうはいかないから。

Kana そんなに違うものなの?

Julia まず、考え方やビジョンからして違うわね。2016年だったかな? FvFでインタビューを受けたことをきっかけにちょっとだけ有名になったの。ポーリッシュ・ディナーも認知されてきて、少しずつ売り上げも取れるようになってきてた。そこで、ポーランド人だけにフォーカスせず、世界中の人々との交流を目的としたディナーパーティーをやりたいって新しい考えが浮かんで、周りのクリエイターやアーティストなど、クールなポーランド人たちが賛同してくれてチームを組んだの。”ポーリッシュマフィア”って冗談で呼んでいたんだけど(笑)。
 
そこからいろんなことに挑戦していったけど、ベルリンだと40ユーロのディナーコースでも高いと言われてしまったし、素晴らしいミシュランシェフを招いて、100ユーロや150ユーロのディナーコースを企画しても20人しか来ないとか、そんなこともあったわ。

Kana 値段が高いと人が集まらないのはベルリンならではかもしれないわね。

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ゲストシェフMarcin Gancarczyk氏を招いて開催

Julia それに、VOGUEやFvFのような良い媒体で取り上げられて、どんなに”君は素晴らしい活動してる!”って賞賛されても言葉だけで誰もサポートはしてくれなかった。ベルリンのポーランド大使館も学校もどこも協力してくれなかったのよね。だから、全て自分でやらなければならなくて、オーガナイズに、時にはシェフまでやって、どうやってお金を払おうとか、常に考えなくてはいけなかったし、本当に大変だったの。

Kana 残念ながら長年暮らしたベルリンを離れる決意をしたのはそういった経緯から?

Julia ベルリンを離れようと決めたのは1年前なんだけど、ポーランドへ戻る理由はたくさんあるわ。まず、家族がいて、安心出来て、居心地が良い。母親はいつも私にパワーをくれるの! ベルリンでやってきたことは本当に苦労の連続だったけれど、ポーリッシュ・ディナーのプロジェクトは今後も続けていきたいと思っているのね。でも、そのためにまたどこかに就職することは望んでなくて、フリーランスでやっていきたかった。昨年、ポーランドへ一時帰国した際に、プロジェクトの話をいろんな人に話したらベルリンとは全く違う反応を得ることが出来たの。まず、驚いて、”そんな素晴らしいプロジェクトなら是非とも参加したい。”と言ってくれて、全部無料で提供してくれると言ってくれたの!

Kana え、じゃあ、私が参加させてもらったディナーパーティーも??

Julia そうよ!! ホテルは宿泊から会場提供、ワインは全てポーランドのナチュラルメーカーからだし、地元の有機栽培農家から食材を仕入れて、ワイングラスもそう。みんな私の提案に耳を傾けてくれて、パーティーに参加したい、一緒にステキな経験をしたいって言ってくれたの。だから、大成功を収めることが出来たし、自分自身への自信にもなったわ。

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“Polish Thursday Dinners” at The Hotel Warsaw

Kana 素晴らしい!! ポーランドの人たちに感動するとともに、ベルリンってなんて冷たい街なんだろうって悲しくなってしまう部分はあるけれど……。

Julia 確かに、ポーランドはベルリンより物価が安いし、コミュニティーも小さい分実現しやすいという点はある。それに、ベルリンもすごく変わったと思う。何もなかった頃から比べて国際的でファンタスティックになったと思う。私も住み始めたばかりの頃はとても楽しかったし、逆にポーランドの魅力を分かっていなかったから、その当時は。

Kana そうなの?? 私はワルシャワにしかまだ行けてないけど、とても魅力的なところだと思ったわ。食べ物は美味しいし、街並みも美しいし、人も優しい、また行きたい場所の一つになってる。

Julia 私も今になってそう思えるようになった。考え方が全て変わったのよ。それもベルリンでの経験があったからこそだと思うし、ステキな出会いもたくさんあったし、カナも会ってるけど、特にワルシャワのイベントに来てくれた友人たちとは今もとても良い関係性が続いているの。

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ジュリアさんがベルリンで一押しのナチュナルワインショップ「Viniculture」オーナーのHolger Schwarzさんと、ご友人のStuartさん。

Kana ジュリアの周りには本当にスタイリッシュで魅力的な人たちが多いと思った!!

Julia 本当にそうね。シェフをはじめ、ファッションデザイナー、画家、ギャラリスト、レストラン経営、ジャーナリスト、ミュージシャンなど、そうゆうクールな人たちをゲストにしたポーリッシュ・ディナーを私はやってきたと思っているし、これからもやっていきたいと思ってる。そこにセレブリティーは必要ない。だって、それはつまらないものになってしまうから。

Kana その考えにはすごく共感出来る。私もセレブリティーな世界やコマーシャルなものには全く興味がないし、それが本当にクールだとは限らない。アンダーグラウンドなカルチャーが好きな自分にとっては特に思う。ジュリア自身もいつもスタイリッシュでステキだけど、ファッションについてのこだわりはあるの?

Julia ありがとう。あなたもね。ファッションに関しては、私はいつも“クラシック・エレガント”をテーマにしたスタイルを心掛けてるの。ミニマルで、ジェントルウーマンなスーツスタイルが好き。これが私のフェティッシュね。ハイヒールをは基本的に履かないわね。Riskをはじめ、ポーランドブランドを買って着てることが多いかな。ベルリンは、みんなシンプルでカジュアルだから、正直エレガントスタイルはやりにくかったけど(笑)。

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Kana すごく分かる(笑)。私はヒールのある靴が大好きなんだけど、ベルリンでは履く機会が減った!! ベルリンでの活動が見れなくなったのは寂しいし、とても残念だけど、ワルシャワを中心としたポーランドでの活躍にすごく期待してるし、応援してる。最後になるけど、今後のスケジュールや計画していることがあったら教えて。

Julia そうね、まずは、ワルシャワで2ヶ月に一度ディナーを開催したいと思っている。今のパートナーからどうやったら収益をあげれるのかノウハウを学んでるし、ベルリンでは得れなかったスポンサーもポーランドなら可能だと思っている。それに、さっきも言ったけれど、私はヨーロッパ中から本当にクールなゲストを呼ぶことが出来るから、国境を越えたクリエイター同士のコミュニケーションの場になって欲しいと思っているわ。

Kana 私個人としては日本でも是非やって欲しい素晴らしいプロジェクトだと思ってるし、日本の文化を伝えるための洗練された社交場って少ない気がするから、ポーリッシュ・ディナーとのコラボで伝授して欲しいなあ。本日は貴重なお話をありがとうございました!!

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Text by 宮沢 香奈
Photo by Saki Hinatsu(Julia)
Special Thanks:Viniculture GmbH

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