自身がまだ今ほどクラブミュージックというものに仕事として深く関わっておらず、1人の“踊り子”だった頃、週末のパーティー探しはカフェやショップに置かれたフライヤーからだった。山積みにされたその中から好きなジャンル、好きなデザインをピックアップして、コーヒーやお酒を飲みながら“今週はどのパーティーに行く?”“わお!来週◯◯が来るよ!”と週末のクラブ予定を決めるのが習慣となっていた。そして、その週の金曜もしくは土曜、さらにはアフターまでのパーティーの内容を考えてはわくわくしていたものだ。

その中でも“行きたい”“見たい”と思うパーティーには必ずと言っていいほど、毎回目にするクレジットがあった。最初は海外のレーベルかエージェントかと思うぐらい日本ではまだそこまで知られていないアーティストを数多くブッキングしていたからだ。

そのクレジットとは、“mule musiq”。
DJはもちろん、ダンスミュージック好きな人なら誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。ある人にとっては、DJ Sprinklesなのかもしれないし、ある人にとっては、Kuniyukiなのかもしれない。私にとってはKOMPAKTというレーベルを好きになるきっかけとなったのが、このmule musiqだったのだ。それ以来、“ここから出ている音を聴けば間違いない”という認識を持つようになり、今では好きなアーティストのほとんどがこのレーベルからリリースしている。しかも、そろそろ聴きたいなあと思う時に来日情報が入るのだからタイミングの良さにもビックリする。何より“その時の気分にぴったりフィットするオシャレ感”なのだと思う。そのシーズンに一番欲しかったブランドの靴を手に入れた時の喜びに似ている。

そんなmule musiqが今年10周年を迎える。10年といえば、社会人ではそれなりの責任を持って仕事をする立ち場になっている。生まれたばかりだった子どもは小学4年生になる。ファッションも音楽もぐるっと1周して戻ってくるサイクルも10年。それぐらいの重さを抱えた10年間という年月の中で300以上もの作品をリリースしてきたmule musiq。

レーベル主宰河崎氏から10周年に関して、こんなコメントが寄せられている。

始めた当初はここまで出来るとは全く予想しておらず、35歳までの10年やろうと決めてファッションの仕事を辞め、何の経験も無く右も左も分からないまま始めました。結果としてはA&Rという職業が向いていた様です。Kuni(kuniyuki)さんの作品をリリース出来た事でレーベルはスタートした段階から軌道に乗り、sly mongooseのrub n tugのremixで一気にブレイクしました。大ファンだったterre thaemlitzのリリースがresident advisorで2度もno.1リリースに選ばれ、自分が一つだけ決めていた”j-club”では無く本当の”club music”を日本からワールドワイドにリリースするという約束事は達成出来た様に思います。これまで300タイトル以上リリースして来ました。どういうフォーマットで音楽がリリースされても良いと思いますが、プレスコストを払ってphysicalに出来なければやはり無意味に思えます。ダンスミュージックの12″シングルは良きも悪きも使い捨てで構わないと思っています。でなければ新しい音楽にトライすることも出来ないですし、だからこそ形として残って、その頃はこんなことをやっていたんだと振り返る事も出来ます。

toshiya kawasaki(mule musiq)

.sly mongoose/snakes and ladder rub n tug remix

.kuniyuki/earth music

.dj sprinkles/midtown 120 blues

今の日本において、ダンスミュージックの立ち位置は決して良好とは言えない。“国の文化”とまでは言わないにしろ、なぜこんなにも可能性のあるものを商業ビジネスの1つとして認めないのか? なぜファッションの様に根付かないのか? ファッションやアートとリンクした“カルチャー”として世の中に浸透しないのか? 伝えるメディアがないのか? フラストレーションと疑問はいつもそこに辿り着く。

数年前にCalvin Klein のショーをドイツの現代音楽家カールステン・ニコライが手掛けていたが、その時受けた衝撃を今でも思い出す。ランウェイでは最新のデザインが照明インスタレーションの上を歩き、バックにはミニマルサウンド。全てがすばらしいシンクロニシティだった。こうゆう“芸術”をやりたい。そう思って始めたのだが、気付けば私自身も音楽の仕事に携わって10年目を迎えていた。mule musiqのような振り返れる足あとはまだ残せていないが、これからもダンスミュージックを心から愛し続けることに変わりはない。

3月22日にはHenrik Schwarz、4月26日にはDJ Koze、Lawrence、Alex bomanをはじめとする豪華ゲスト陣を招いて10周年を記念したアニバーサリーパーティーが開催されるという。是非この機会に本当の“club music”を体感しに行って欲しい。

10 years of mule musiq at womb
open 23:00 door 3500jpy w/f&member 3000jpy

3.22(sat)
endless flight -henrik schwarz 10 years anniversary-

henrik schwarz -3h special long set-
toshiya kawasaki
100ldk&sati. -visual-

“force field lounge”
force of nature
dj sotofette(sex tags mania/wania)
gonno(wc/international feel/beats in space)

4.26(sat)
we love pampa

dj koze(pampa)
lawrence(dial/smallville/pampa/mule) -live-
pige(tresvibes)
100ldk&sati. -visual-

“cats lounge”
axel boman(studio barnhus/pampa)
toshiya kawasaki(mule musiq)