年前、とあるメーカーからの依頼で彼のインタビューをやらせてもらった。その時には、“海外で活動している前衛的なアーティスト”という印象だった。私は機材にもヒューマンビートボックスにも詳しくないし、やはり“Face to face”でなければ本当に伝えたいことは伝わって来ない。彼の“声”を聴かなければ深く知るなど出来ないのだ。

ベルリンへ来てすぐに会うことが出来た彼の印象は良い意味での裏切りだった。現代人は忘れてしまったのか、時代遅れとされてしまったのか、真っ直ぐで情熱的、常に何かと真っ正面から向き合い、戦っているかのように見える。

それが、表現者であり、音楽家であるRyo Fujimoto氏である。

ベルリン在住、ワンアンドオンリーなアーティスト、2人目を紹介したい。

ベルリンは空気感と人との距離感が良い。
反応がダイレクトだから実験が出来る街

“3.11から音楽性がガラリと変わった。”表現者、音楽家Ryo Fujimotoを追う column150312_km_3

ヒューマンビートボックスにポエトリーリーディング、楽器でもある自分の“声”と、Ableton Live, KAOSS PAD3数台、Leap Motion、時には、アコースティックギターなど、様々な機材を駆使して作り出すその独特な音楽スタイルは“Humanelectro”と呼ばれ、一見、何者か、何のジャンルなのかも分からない。時に過激で、常に熱い。そこに行き着くまでの経緯は何だったのだろうか?

“14歳の時に父親が亡くなって、子供心にものすごい傷付いていたんですよね。そんな時に、テレビで“ハモネプ”(バラエティー番組「力の限りゴーゴゴー!!」のコーナー」がやってて、そこで見たボイスパーカッションにすごい救われた気がしたんですよ。それをきっかけに音楽を始めて、15歳からライブに出てました。僕は関西出身なんですけど、三ノ宮でストリートライブをやっていて、その時に見に来てくれた年上の人から気に入ってもらって、クラブに誘われたんですけど、15歳じゃ入れないからって断ったら、1000円をくれたんです。それが人生初のギャラでした。本当に嬉しかったですね。

2008年ぐらいから、可能性を拡げるために、本格的に機材を使い始めて、2009年には東京へと活動拠点を移しました。これまでにいくつかの事務所にも入ったりしたんですが、今までのビートボックスのイメージ通りに、HIP HOPをやって欲しいとか、自分のやりたいことと何か違うなって思って、そこからずっとセルフプロデュースでやってます。”

“3.11から音楽性がガラリと変わった。”表現者、音楽家Ryo Fujimotoを追う column150312_km_1

2010年に開催されたDMY(国際デザインフェスティバル)に招聘されたのをきっかけに翌年からベルリンに拠点を移した。しかし、ベルリンと言えばテクノというイメージがこびり付いている。テクノを聴かない、クラブにもあまり行かない、世界各地でライブを行っているRyo氏にとって、ベルリンとはどんな存在なのだろうか?

“とにかく空気感が良かったんです。東京から来た人は絶対に感じると思うんですけど、あのストリクトな感じがない。それに、良い意味で人が放っておいてくれる環境がある。例えば、友達から遊びに誘われても「今は制作に集中したいから」と言えば、分かったと言って、終わるまで放置しといてくれるんです。これが日本だったら、付き合いの悪いヤツになってしまうだろうし、こっちもみんなの行動が気になってしまう。だから、ちょうど良い距離感を保ってくれるのが僕には合ってますね。孤独だけど、1人で考えることが出来ますし。だから、ベルリンでは制作活動を集中してやっています。

あと、何より実験が出来るのが良いですね。音楽が染み付いている街だから、出来たてほやほやの音源をすぐにライブで試して、その場でダイレクトに反応が見れるというのはアーティストにとって、とても良い環境だと思います。ベルリンに限らず、他の都市も同様の反応が見れるので、ヨーロッパでのライブはすごくやりがいがあります。日本だと、遠くから腕組みながらじっと見てて、終わった後に、“良かったよ~!”って言われることも多いんです(笑)でも、こっちだと日本語でリーディングしてても純粋に受け止めてくれるんですよね。

それに、いろんな国に行ってライブをしていますが、他の出演者は外国人がほとんど。だから、常に日本人代表って気持ちでやっています。僕がライブで失敗したら、それがそのまま日本のイメージになっちゃうし、二度と呼んでもらえないからものすごい気合い入れてやります。でも、世界を相手にしてるんだったらそれは当たり前のことだと思うんです。”

ベルリンは、良い意味でも悪い意味でも他人に関心のない街である。それでいてシビアである。多くのアーティストが環境が良いと言うのは、誰にも邪魔されず、“自分の時間は自分のもの”と感じれるからなのだと思う。しかし、中には居心地が良いだけで何もしない“アーティスト気取り”もいるのも事実である。物書きの私から見ても、何て勿体無いことをしているのだろうと思ってしまう。表現したいものがないのなら今すぐ“自称アーティスト”の看板は下げた方が良い。

Ryo氏は、現在、秋に予定している日本での全国ツアーに向けて、ひたすら制作中である。昨年にも全国30ヶ所を回るかなりハードなツアーを行っており、最近公開されたばかりのDommuneのライブ映像は、かなりの衝撃を受けた。原発、放射能など、今の日本の最重要問題に真っ向から向き合ったポエトリーリーディングである。かなりの勇気が必要だったと思うが、今回の取材で私が最も彼に聞きたかったことでもある。

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