千春 日本で演奏することも多いんですが、まず海外と求められることが違いますよね。例えば、コンサートのプログラムを組む時に、“有名な曲を必ず1曲入れて下さい。そうするとチケットも売れやすくなるので”と言われるんです。日本人の特徴だと思うんですけど、自分の知っているものでないと恐れてしまって手が出せない、知識がないと怖いと思ってしまうのかなって。。

香奈 ああ、それは、いろんなジャンルのアーティストからも良く聞く話ですね。大多数の人が良いと思ったものを良いと思う。著名人がメディアで推薦した物を良いと思う。イコールそれって自分の感覚に自信がないってことですよね。

千春 まさにそれです。この前のコンテンポラリーの時は、有名な曲とか全然関係なく演奏しましたけど、終わった後に、“初めて聴いたんだけど、あれは何?”と純粋に興味を持ってくれて、恥ずかしがらずにいろいろ質問してくれる人が多かったんです。でも、それが自然な感覚だと思うんですよね。自分が感じたままで良いし、周りの人の意見は気にしなくていい。絵や芸術もそうですが、それが一番大事なことだと思います。

香奈 私もそう思います。ただ、クラシックは一般的に敷居の高いもの、ちょっとお堅いものってイメージが付いてしまっていると思うんです。特に日本ではそうだと思うんですが、そういった意味では、誰でも知っている曲を演奏して、そこから興味を持ってもらうというきっかけにはならないんでしょうか?

千春 確かにきっかけにはなるんですけど、それだと、クラシックに入門したは良いけど、いつまで経ってもずっと入門したままの状態になってしまうんですよね(笑)。

香奈 (笑)。そこからちっとも先に進んでいかないと。

ベルリンで生きる女性たち【ヴァイオリニスト編】 chiharu3

千春 日本の小中学校で習う音楽がつまらないというのも原因の1つだと思うんです。モーツァルトやらシューベルトやら偉大な音楽家のことを色々習ったと思うんですけど、あの授業の中で「シューベルトって素敵だなー」って思えた生徒が一体どれぐらいいたんだろう? って。私自身、音高に行っていたのに、専門的な音楽の授業でさえ、つまらないという認識を捨てられなかったですよね。今思えば、音楽の歴史とか絶対やっておくべき大事な授業がいっぱいあったし、すごく良い先生もいたのに、授業=つまらないという雰囲気が全体的に出てしまっていて、そんな中で自分だけ真剣にやろうとは思えなかったですよね。“1時間半もあるよ、もう早弁するしかない!”ってなっちゃう(笑)。でも、チューリッヒでは全然違ったんです。まず、寝ている人なんて誰もいないし、スイス人は控え目だって言われてますが、発言もバンバンします。授業を聴く姿勢からして全然違い過ぎて、それが一番のカルチャーショックでしたね。

香奈 日本では分からないことはその場で質問するという教育を全く受けてこなかったですからね。それでグローバルで活躍したいとか、何言ってんだ!って話ですよね(笑)。音楽だけでなく、他の科目もつまらなかったと思います。数学の方程式とかあんなに必死になって覚えさせられたのに、今何の役にも立ってないですよね(笑)。それに、授業のつまらなさがそのまま社会に反映されてしまって、仕事=つまらないと考えてる人が本当に多い気がします。

千春 私も日本にいたら気付かなかったかもしれません。もし今、高校生に戻れるならもう一度勉強し直したいです。学ぶって大事だし、知識って宝だし、それに気付いて自分の進むべき道を切り開いて欲しいですよね。

香奈 本当にそうですね。何だか随分話が違う方へ逸れていきましたが(笑)。ヴァイオリン以外で興味あることはありますか? 滝さんは、クラシック専門だけど、演奏を聴いていると、他のことからも刺激やインスピレーションを受けていると感じることがあるんですが。

千春 うーん、パッと思い浮かぶところではやっぱりファッションですかね。とにかく好きなのでよく買います! ただ、流行りものが好きじゃないかな。流行に逆らうのが好きなのかもしれないです(笑)。

香奈 ここにも反抗期が(笑)。

ベルリンで生きる女性たち【ヴァイオリニスト編】 chiharu1

Photo by Daisuke Tsubota

千春 日本で一時期、白いTシャツにウエスト部分から花柄のミニスカートになるワンピが流行っていたんですけど、渋谷の街が全員それじゃないかってぐらい同じ格好で衝撃を受けたことがあったんですよ。もし、第一印象でかわいいって思ったとしても、100人中100人が着てたら絶対に着ないですよね。

千春&香奈 人と一緒は絶対にイヤだよね〜(笑)!!

千春 だから、セカンドハンドやヴィンテージが好きですね。人と被らないし、ヨーロッパはクオリティーも高くて、種類も豊富に揃ってますから。

香奈 ベルリンは値段設定も良いですよね。あとは、アジア人サイズがあれば言うことないですが……。ファッション関連でも良いんですが、コンサートの時の勝負アイテムとかってあるんですか?

千春 うーん、Tバックを穿く(笑)。あと、バナナを食べるですかね。本番前は食事を食べれないタイプなので、バナナで栄養補給します。

香奈 Tバック(笑)?? なるほど、貴重な回答をありがとうございました(笑)。

ヴァイオリニストとして、常に何千人の前で弾かないといけないというプレッシャーの中で生きている。一発勝負の本番にピンポイントで集中出来るように日頃から鍛え、自分を追い込み、挑むのだという。“蹴られて伸びるタイプですね”と朗らかに笑う彼女の今後の活躍を、ここベルリンで、今後も応援し続けていきたいと思う。

滝さん、貴重なお話をありがとうございました!!

ベルリンで生きる女性たち【ヴァイオリニスト編】 chiharukana2

次回は、ベルリンを拠点に世界を廻る女性DJ・Anriさんをフィーチャーします。お楽しみに!

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