宮沢 昔のベルリンには私もすごく興味があります。グレーで退廃的で、でもそこから生まれるカルチャーは圧倒的なかっこよさがある。そう思っています。星さんにとってのベルリンはどうですか?

 まず、ベルリンの環境は自分に合っていると思ってます。やっぱりやりたいことが出来る環境があるというのはすごい幸せなことですよね。公募で通った作品や声をかけてもらったりして出展数が増えてきましたが、実際に作品が売れるという実感を得れるようになったのは本当に最近なんですよ。ベルリンへ来た当時はあまり絵が描けない状態で……。

宮沢 え、そうだったんですか? 何かのその時に壁にぶち当たっていたことがあったんですか?

 日本では、ずっと抽象的な絵を描いていたんですけど、それが突然描けなくなってしまって……。あとから分かったんですが、知らないうちに理論的な考え方をするようになってたんですよね。旅先で、ホステルに帰ろうとした時に、偶然おもしろそうな小道を発見したんですよ。暗くて、何があるか分からない道を。いつもの自分だったら絶対その小道を通ってたと思うんですけど、その時はなぜか通らなかったんですよね。明るくて、すでに知っている安心出来る道を選んで帰ったんです。イメージとか感性って第六感から生まれるものだと思うんです。それなのに理論的に生きてたら生まれるわけないんですよね。だから、ちょっとでも思ったり、浮かんだりしたことは行動に移さないとダメなんだと思いました。

宮沢 確かに、明確になってる物の中には抽象的なものも冒険心もないですよね。でも、星さんの今の作品は、人物やお城などリアルなものも多く描かれていますよね?

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『sleeping beauty』(2016)

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現在ベルリンにて開催中の展覧会『KUNST BOULEVARD』

 そうですね。当時、抽象的なものを描きたいけど、描けない。だったら、目に見えるものを描いてみようと思って、リハビリみたいな形で、動物の目とか人物とか身近にある具体的なものから描き始めたんです。それを自分が納得出来るまでひたすら続けているうちに、自然と第六感が戻ってきて、また頭の中にイメージが浮かぶようになったんです。そこからまた抽象的な絵を描けるようになって、2014年ぐらいから抽象的なものと具体的なものを構成し直して、そこに色を入れていくという今のスタイルが出来上がったんです。

宮沢 なるほど。ベルリンは再スタートの場所だったんですね。人物でも特に女性を描いている作品が多いと思いますが、中でも『holes』シリーズ興味深かったです。花柄とかカラフルな色彩が多い中で、全体的にダークで影がある珍しいタッチだなと思ったんですが、何か経緯があったんですか?

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「熊本地震のチャリティーコンサートで使用された熊本城の作品」

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『holes05』(2014)

 『holes』シリーズは、2014年から描き始めたんですけど、100×100サイズで、どこかに大きな穴があるというルールだけ決めて、毎月1枚ずつ、計6枚描きました。(例えば『holes05』ではモデル自身が)壁に穴を空けて、そこから外の光を見ているイメージなんですが、当時の自分を描いていたんだと思います。

宮沢 2014年は星さんにとって、スランプから抜け出して新たな画風が出来上がった良い時期ではなかったんですか?

 うーん、やっぱりその前に起きた3.11のダメージが大きかったんですよね。自分はベルリンにいて、何かしなくちゃいけないのに何も出来ない無力さに打ち拉がれていたんですよ。それで、<Re:3.11>っていうグループ展をやって、翌年に三回忌としての「Requiem」を終えて、ようやく前に進んでいくことが出来たのが2013年だったんです。そのあとに描き出したのが『holes』シリーズでした。
 
宮沢 世界のどこにいてもあの時のダメージの大きさは計り知れないですよね。私も3.11が起きてから自分の人生を考え直して、2014年に移住を決めましたから、少なからず理由の一つになっているんだと思います。“こうしなくてはいけない、こうならなくてはいけない”という中で生きてきてしまったから、ベルリンに来てから解放された部分はありますよね。“もっと自由でいいんだ、自分を解放させていいんだ”って思いました。

 僕も今のこの環境だったら、頭の中に描きたいもののイメージが浮かび続けて、ずっと描き続けれると思っています。ファインアートもそうだし、コンテンポラリーもそうですが、アート自体に興味を持ってくる人がすごく多いと思っています。自分の持っている感性と違うものを見ることに喜びを感じれる人が多いんですよね。同じ感性を求められる日本と違う感性を求められるヨーロッパとの違いだと思っています。僕は、ドイツ人アーティストの中で展示することが多いですが、ちょっと異質なんですよね。日本でもそうだと思うんですが、どのカテゴリーにも当てはまらないようにも見えるし、でもその中にあっても良いかなという雰囲気も持っている。それが、日本だと居心地が悪くなってしまうけど、こっちだと逆に居心地が良かったりするんですよね。

宮沢 有名無名に関係なく、自分が良いと思ったものを先入観なしで賞賛しますよね。音楽やアートの現場では特にそう感じることが多いです。
いろんな苦労や苦難を乗り越えてきて、今の星さんがあると思いますが、星さんにとっての絵とはなんですか?

 絵がない人生は考えられないですよね。絵が人生かって聞かれたら、それはまだ分かんないけど、全部捨ててでも絵は描きたいと思っています。もし、恋愛がダメでも、友達がいなくても、人格が破綻してても100年後に残ってる絵が描ければ良いと思ってるんです。それが出来ないんだったら、あんまり生きてる意味がないんですよね。絵はないと困るけど、友達と遊ぶ楽しみはなくても生きていけますから(笑)。

宮沢 究極にストイックですね。最後になりますが、今後やっていきたいことや夢があったら教えて下さい。

 生きている間に美術館に自分の作品を置きたいですよね。そうしたら100年は残せるじゃないですか。あと、自分の美術館を建てるのが夢ですね。ドイツの城を買ってそこを自分の美術館にしたいんです。

宮沢 お城を美術館にするってステキなアイデアですね!

 ドイツにはまだ城が余ってると思うんですよ。財団を作って、そこら中から自分の作品を買い戻して、作品も増やさないといけないし、まだまだ死ねないですね(笑)

宮沢 ですね(笑)。

 でも人は、人生の目標がある限り死なないと思ってるんです。だから、僕は生きている限り絵を描き続けます。

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“自分の頭にUSBぶっ挿して、プリントアウトできたら良いですよね。”そう言いながら屈託なく笑った彼の表情はとても明るく、頭の中は今すぐにでも描きたいイメージで溢れかえっているのだと思った。全く違う世界の感性を覗きたくなったら、またあのアトリエに遊びに行かせてもらおう。

星さん、貴重なお話をありがとうございました!!

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▼映像クリエイター太湯雅晴との共同プロジェクト『同行三人』発売予定

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KUNST BOULEVARD

2016.06.29(水)~09.18(日)
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AURAKURE

2016.10.29(土)、30(日)

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Photo by Saki Hinatsu