——ビートルズのメンバーで誰が一番好きですか?

大井 やっぱりジョージ・ハリスンですね。ラーガロックの先駆けという面ももちろん、セッションプレーヤーとしても優れていて、ビートルズのレコーディングにエリック・クラプトンやビリー・プレストンを呼んでくるような、他のメンバーにはない交友関係の広さがジョージにはありますよね。そういう立ち位置って、僕自身もバンドを二つやっていたり(DATSとyahyel)、サポート活動もしているので、すごく共感できるんですよね。

森山 僕は、メンバーだったらポールなんですけど、ジョージ・マーティンの立ち位置が好きで、ああいう人になりたいって思うんですよね。「名グループには、必ずもう一人のメンバーの存在がある」と思ってて。

——レディオヘッド(Radiohead)のナイジェル・ゴドリッチとか。

森山 そうそう。YMOも松武秀樹さんというブレーンがいたし。実際に技術の部分でも、かなり力を添えて一緒に実験していくというのが好きですね。例えば『サージェント・ペパーズ〜』では、“She’s Leaving Home”の弦アレンジをポールが別の人に発注しちゃうんですよね。それでも怒らずコンダクトを振るおおらかさ(笑)。そこはビートルズ・ファーストじゃないですけど、アーティストの意見を一番に考えて、自分の立場をわきまえた上で関わっていたからこそ出来たんじゃないかなと。

——では、『サージェント・ペパーズ〜』と、今回の50周年記念エディションについての感想をお聞かせください。

橋本 今回のディスク1(ジャイルズ・マーティンによるリミックス盤)を聴いたら、目の前で『サージェント・ペパーズ〜』が本当に演奏しているような感じがして、ものすごくびっくりしました。一応、コンセプトは架空のバンドが演奏しているということですけど、今までの印象だと、最初の曲とリプライズ以外は普通にビートルズのオリジナル・アルバムだなって感覚だったんですよ。でも今回のリミックスで、最初から最後まで『サージェント・ペパーズ〜』の演奏みたいに感じるようになりました。

【インタビュー】若きミュージシャンたちの視点が交錯。ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念座談会 interview_beatles_-0031-700x467
橋本薫(Helsinki Lambda Club)

——『サージェント・ペパーズ〜』の中で、特に好きな曲は?

橋本 僕は“With A Little Help From My Friends”が好きです。このアルバムを制作していた時期のビートルズは、ツアーで疲弊しメンバー間も時には険悪だったと聞くんですけど、そういう時期に、ポールがこの曲を作り、《友達の助けがあれば僕はハイになれるんだ》って歌詞の中でメンバーにメッセージを送っているところとかグッときますね(笑)。“When I’m Sixty-Four”も、取り立てて目新しかったり革新的だったりする要素はないんですけど、「素直にいい曲」として今も聴けるのはすごいなと。

森山 僕は、“A Day In The Life”が一番好きで、この曲は特にそうですが、このアルバムは例えばシュトックハウゼンのような現代音楽の手法を取り入れたと言われていますよね。それって、その界隈ではさほど目新しい手法ではすでになかったと思うんですけど、でも、お茶の間では絶対に聞かれていなかった種類の音楽なんですよ。それを白日の下に晒したというところがすごい。それはインド音楽もそうなんですが。そういうところが『サージェント・ペパーズ〜』の魅力でもあるのかなと。

——大井さんはやっぱり、“Within You, Without You”が一番好きですか?

大井 はい、もちろん(笑)。

——僕は、今回のリミックスで最も驚いたのが“Within You, Without You”でした。ストリングスの空間的な広がり、立ち上がりや減衰の解像度、タブラの低音感など全てが際立っていて。

大井 そうですよね。本当に、今まで聞こえていなかった音が聞こえてきて。シタールの倍音の響きも増していましたよね。あと今回のリミックスで、リンゴのドラム、特にフィルインがメチャクチャいい音になってますよね、“With A Little Help From My Friends”や“Lovely Rita”、それに“Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)”のイントロのドラムも。「え、なにこれヒップホップ?」って思った。

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大井一彌(DATS、yahyel)

——実際、ビースティ・ボーイズが“The Sounds of Science”でリプライズをサンプリングしていましたよね。ブレイクビーツに使いたくなるドラムですけど、リミックスでさらにパワーアップしている。Reiさんのお気に入りの曲は?

Rei 強いて挙げるなら、今は“Being For The Benefit Of Mr. Kite!”ですかね。間奏の部分でクロマティックな音階を行ったり来たりするのがすごくカッコよくて。私が今作っている3拍子の曲でも、ちょっとオマージュしているんですよ。ピアノで上がったり下がったりみたいな。

——歌詞の部分で何か気付くところありますか?

Rei “Fixing A Hole”とか、比喩の使い方が面白いなと。文学的だし。“Penny Lane”は、《And then the fireman rushes in from the pouring rain》(そして土砂降りの雨の中を、消防士が(床屋に)駆け込んでくる)っていう歌詞の部分がすごく好きで。もう本当に、初めて聞いたときは「なんて素敵な歌詞なんだろう」と思って。雨の中に消防士が出てくる、すごくシンプルなのに発想がすごくいいなっていうか。

大井 それと、この頃になってくるとSEの使い方というか、サンプリングっぽいところが面白いですよね。僕はヒップホップも好きなんですけど、ここぞというタイミングで効果的なSEを入れてくるセンスとか、やっぱりすごいなと思います。