日本の美学と〈Erased Tapes〉の世界

ロンドンは騒音に溢れています。そんな街に住んでいると「静けさ」の価値を再認識させられます。私たち〈Erased Tapes〉が大切にしているのは「静寂」と「レス・イズ・モア」の精神。  そして、このレーベルのコンセプトを非常によく表現しているのがMasayoshi Fujitaの『Apologues』です。

Masayoshi Fujitaは、ベルリン在住の日本人ヴィブラフォン奏者です。ヴィブラフォンはどちらかというと、ジャズやクラシックで沢山の音を奏でる活気あるスタイルで演奏されることが多い楽器ですが、Masayoshiの演奏は、音の響き、余韻、そしてそこから生まれる静けさを大事にした美しい演奏です。チェロの弓をつかってゆっくりとうねりのある音を生み出すなど、メロディに頼るのではなく、音の響きを大事にしています。

2016年、私はMasayoshiのジャパンツアーに同行しました。公演に付き添うだけではなく、温泉宿を訪れたり、Masaが演奏を披露する代わりにお食事や宿を提供していただくという、まるで音楽家とライフスタイルの基本のような大変豊かな時間でした。私はこうして日本の文化を実際に体験することで、彼の音楽をより理解することができました。そして日本の「間」や「静寂」を大切にする文化と、私たちのレーベルが追求する音世界とが強く繋がっていることを感じました。こうして私は、さらに日本に魅了されるようになりました。そして今年オープンしたサウンド・ギャラリーでは、お客様用スリッパをご用意しています。〈Erased Tapes〉の世界感を多くの方に感じていただく空間であると同時に私たちの新しい家ですから、おもてなしの心や、空間をケアするという日本のみなさんの考え方を、多いに取り込みたいと思いました。

Masayoshi Fujita – Apologues (2015)

音楽の贈り物

フリー・コンピレーション『Erased Tapes Collection』は、私たちから音楽を聴いてくださる人々へのプレゼントです。常に音楽を売るのではなくて、聞いて頂きたい音楽は、贈り物のように素敵な気持ちを添えて人々に届けたいと思っているからです。

選曲に関して、これまではリズムだったり、音楽のフィーリングにフォーカスした作品が多かったのですが『Erased Tapes Collection VIII』は、未来への希望を感じる、そんなストーリーを伝えたいと思い「新しい始まり」や「希望」のメッセージが含まれる楽曲をセレクトしました。

#01「They Way」Allred & Broderick

〈Erased Tapes〉にインスト作品が多いのは、 私が音楽は言葉よりもパワフルであると信じてきたからです。しかしこの楽曲に出会い、言葉数は少なくても大きなメッセージを届けるこという「言葉の力」を感じました。

《People should start talking to each other Again. We All the Same》
「話し合いましょう。 私たちは皆同じ地球に住む人間なのだから。」

私たちは世界中の仲間に連絡をとり、歌詞の一部を書いたパネルを持って撮影に臨んでもらいました。 このPV制作は、レーベルのファミリーのプロジェクトのようになり、10周年企画にふさわしい内容になりました。

#08「Rex」Dare
この楽曲には、ロバート・デ・ニーロの声がサンプルされています。 アーティストJRによるショートフィルム『エリス島のゴースト(The Ghosts of Ellis Island)』の中に出てくるロバートの台詞です。エリス島は、アッパー・ニューヨーク湾内にある移民局が置かれていた島で、そこは新しい人生をはじめるためにアメリカにやってきた人々にとっての希望の入り口でした。

Various Artists – Erased Tapes Collection VIII (2017)

10周年のニュース

サウンド・ギャラリー「Erased Tapes Sound Gallery」
〈Erased Tapes〉10歳の誕生日2017年2月5日、レーベルは東ロンドンに新たな家を構えた。 週末には、一般の方に扉を開いている。 かつて建築家を目指した創設者ロバート氏が創り上げたレーベルの音世界を体験できる空間だ。

住所:174 Victoria Park Road London E9 7HD Great Britain
オープン:Saturday 12—8pm Sunday 12—8pm

フェスティバル・ショーケース
年間を通して世界中のフェスティバルでショーケースを実施する予定。11月に日本で開催される<MUTEK>にも参加する予定だ。

詳細はこちら

ポスト・クラシカルのパイオニア〈Erased Tapes〉創始者ロバート・ラスが語る、「静寂と平穏」の音世界 interview_erasedtapes_2-700x467

RELEASE INFORMATION

『Erased Tapes Collection VIII』

ポスト・クラシカルのパイオニア〈Erased Tapes〉創始者ロバート・ラスが語る、「静寂と平穏」の音世界 interview_erasedtapes_1-700x700
Erased Tapes
下記リンクよりメールアドレスを登録する事でフリーダウンロード可能
詳細はこちら

オフィシャルサイトTwitter Facebook

text & interview by 木村真理(Sha-la-la Company London)