——他の曲を見ていくと、今回も実在の登場人物の名前が多くの歌詞に登場しています。その主要なものについて、それぞれどんな興味を感じて引用したのかを教えてもらえますか。まずは6曲目“Hits Hits Hits”に登場するアイク&ティナ・ターナーから(60~70年代にかけて音楽史に残る名曲を残す一方、夫婦生活ではアイクによるDVが行われていた)

リアス アイク&ティナ・ターナーは、俺とソウルの関係を表現するための例えとして引き合いに出しているんだ。どっちがアイクでどっちがティナかって? それは秘密だよ、曲のネタばらしになっちゃうからさ。まあ、当てるのは難しくないけどね(笑)。

——あなたたちはアイク&ティナ・ターナーのファン?

リアス もちろんさ。彼らのファンじゃない人なんているの?

・アイク&ティナ・ターナー(6曲目“Hits Hits Hits”)

——次は、7曲目“Tinfoil Deathstar”に登場するデヴィッド・クラプソン(生活保護を打ち切られ餓死状態で発見された英ハートフォードシャーの元兵隊)。

リアス デヴィッド・クラプソンは、英国の政治的状況がいかに腐ってるかの良い例だよ。みんな彼の名前をググってみれば意味がわかると思う。社会福祉の規模を縮小するとどうなるかっていうことの、痛切で悲劇的な例だから、彼の名前を出したんだ。

——8曲目“When Shipman Decides.”のハロルド・シップマン(モルヒネなどの過剰投与によって15人の患者を死亡させた殺人医師)はどうですか?

リアス 彼の名前を出したのは、俺が大ファンだからさ。

ソウル (笑)。ハロルド・シップマンは、特に興味深くて変わった連続殺人鬼だね。ファンというのは嘘だけど、彼について興味があってそれを掘り下げたかった。そうしちゃいけないなんて理由はどこにもないと思う。これも人間の人生についての曲だし、僕らが見つけた、変な興味の対象のひとつさ。

リアス そこから顔をそむけないといけない理由なんてないんだ。

ソウル そうさ。人々はこういう忌まわしい犯罪について……。つまり、それがどんなに間違ったことでも自分のやりたいことをやってしまう人間に対して、抑えきれない興味を抱くものだと思う。

リアス 特にそれが職業上では普段人々を救っている人物で、コミュニティの中でも重要な人物なら余計にさ。とても興味をそそられる題材だよ。

ソウル 俺が自分のガールフレンドについて歌うよりもよっぽど興味深いね。

——(笑)。ちなみに、5曲目のタイトル“Lebensraum”はアドルフ・ヒトラーが『我が闘争』の中で使った言葉ですが、それに対応してか、歌詞も全編ドイツ語になっていますね? 

リアス あの歌詞はドイツ語を話せる俺の父親と一緒に書いたんだ。街の高級化に反対する長口上だよ。

ソウル 俺たちはこれをビア・ホールみたいな、オクトーバーフェストみたいなサウンドにしたかった。“ウンパッパ”のリズムにのせてさ。

——最後はヒトラーが妻や執事らと逃げ込んで自殺した場所=総統地下壕を舞台にした10曲目“Goodbye Goebbels”に登場するヒトラーとヨーゼフ・ゲッベルス。この冒頭には、かすかに女性のセリフが挿入されていて、曲が始まって以降もうっすらと会話のような声が聞こえます。

リアス あれは単純に、レコーディング中にスタジオの階段にマイクをセットしてみた結果なんだ。俺の親しい友人のキャンディがいつものごとく酔っ払って大声で喋っていたのがたまたま録音できたんだけど、なかなかチャーミングなレコーディングだと思うね。何を喋っているか聴き取れないし、彼女自身覚えてないから謎のままだよ。それが分かったら大して面白い内容じゃないんだろうけど、もしかしたら人生を変えるような重要な情報が含まれているかもしれない。ヒトラーの視点から書いた曲だよ。

ソウル 歴史的に見て、とりわけ極端に緊張感と波乱に満ちた異常に劇的なストーリーで、一体そのときに水面下で何が起きていたのか誰もはっきりとは知らない。何が起きたにしろ、それは凄まじく悲劇的なことだったに違いないんだ。

リアス 好むと好まざるに関わらず、彼らだって人間だったのさ。

ソウル ああ。それこそが俺たちが言おうとしているメッセージだと思う。作品に登場する人物もみんな人間で、彼らは俺にだって、君にだって似ている。それが興味深いと思うんだ。

リアス 俺たちはみんな関連性があって、だからこれらの人物に興味を惹かれて感情移入をしている。俺たちは人間として、彼らとそんなに大きく違っているわけじゃない。ほんのちょっと角を曲がれば、同じようになる可能性があるわけだし。だから、こういうことについて歌うのは理にかなっていると思うんだよ。

ソウル それも3分間のロマンチックなバラードでね。

——対して2曲目“Satisfied”で引用されるプリーモ・レーヴィ(アウシュヴィッツ強制収容所から生還した体験を作品にして大成した作家。代表作は『これが人間か』『星型のスパナ』など)は同じ時代をヒトラーと真逆の立場で生きた人物です。

ソウル うん、ほとんど文字通りね。どうして彼に興味を惹かれるかは説明の必要がないよ。彼は素晴らしい人物だ。

リアス 彼は間違いなくヒーローだし、彼が書いた本も読んだけど素晴らしい。でも他に出てくる人物と同じく、ここでも彼の名前は作曲の上での象徴的なツールとして使っているんだ。

FAT WHITE FAMILY – “IS IT RAINING IN YOUR MOUTH?”

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