——制作に際して、メンバーやスティーヴ・アルビニとの間で取り決めたルールやアイディアのようなものはありましたか? それとも、自然に楽曲ができていった感じですか?

ゲイリー とにかく、自分たちのレーベルや経営陣、熱心なファンといった人たちがどう考えるかなんてことは気にしないようにしたね。荒っぽいと思われるかもしれないけど、それが事実なんだ。バンド活動を始めたとき、僕たちはいかなる「成功」も手にしていなくて、だからこそ何をするべきか、または何をするべきでないかといったこだわりは持っていなかった。ただひたすら本能の赴くままに曲を書いて、おかげでかなり多作なバンドになった。

そして今回のアルバムでは、「今の自分たちには守ったり維持したりするべき名声がある」という事実をあえて無視して、できるだけ本能のままに行動したいと思ったんだ。今の僕たちはイギリスでチャートのトップ10に入れるバンドだから、当初はこのアルバムをEPとしてリリースしようと考えていた。売り上げへの期待から来るプレッシャーを取り除くためにね。だけど、いったん完成してしまうと、僕たちはこのアルバムがすごく気に入って、完全な形で“アルバム”として発表したいと思うようになったんだ。その結果、イギリスのラジオでは全然流れなかったけれど、それでも、チャートではこれまでの僕らの作品の中で最高の順位を獲得した。それだけファンたちが買ってくれたんだ!

ロス このアルバムでの曲作りは、他のクリブスのアルバムとは異なった経過をたどっているんだ。『Brazen Bull』や『For All My Sisters』での曲作りのセッションの最中に作ってみようとしたけど、結局は棚上げになってしまった曲がいくつか生まれていて、それをいつかスティーヴとともにレコーディングしようと思いついた。だから、それからの僕たちは楽曲を貯蔵するようになって、充分な数が貯まってからスタジオを確保したんだ。

——では、今回の収録曲の中で、メンバーそれぞれのお気に入りの楽曲を3曲ほど挙げてもらい、制作中の印象的なエピソードもそれぞれ教えてください。

ゲイリー 個人的には“In Your Palace”がすごく気に入ってるよ。歌い出しは陰鬱で暗いけど、サビに入れば壮大でポップになる。こういう相反する要素を備えた曲がとても好きなんだ。この曲はポートランドで書いたんだけど、すぐさま「シングルになるだろう」って感じたね。セカンド・アルバムの『The New Fellas』に近い雰囲気がある曲だと思う。たとえば“Mirror Kissers”みたいな感じでね。

The Cribs – Mirror Kissers

ロス 僕のお気に入りは頻繁に変わっているんだ。今日のところは“Sticks Not Twigs”だな。この曲は、ゲイリーがアコースティックなデモをスタジオに持ってきたものだった。僕もライアンもすごくいいと思ったから、セッションの終わりかけに、恐る恐るスティーヴに、「もう一度マイクをセッティングして、これをレコーディングしてもいいかい?」と尋ねた。そうしたら彼が喜んで受け入れてくれて、そこから急いでレコーディングしたんだ。この曲が転換点になって、このレコードはEPではなくフル・アルバムに変更されたんだと思う。

ライアン 僕のお気に入りは“Dead At The Wheel”かな。この曲は作った経緯がすごく面白かったんだ。自由なジャムセッションで作ったものをスティーヴのスタジオに持ち込んで一度色々と付け加えたんだけど、その後完成することはなく、長い間放置されていたんだ。そんな楽曲を完成させたのはとにかく素晴らしい経験だった。この曲は歌詞にもすごく満足しているよ。それと今は、“Partisan”も本当に気に入ってる。ライブで披露するようになったばかりなんだけど、すごくパワーのある曲だからね。

——最も苦労した楽曲を選ぶなら? 

ゲイリー 実はどの曲も簡単にできたんだ。スティーヴのスタジオで準備をして、それぞれの曲を何回か通しで演奏して、それから一番よかったテイクを選んだ。正直なところ、本当に楽だったよ! でも、ライアンがお気に入りに挙げた“Dead At The Wheel”だけは違うやり方でレコーディングした曲だったね。この曲は、ポートランドにある自前のスタジオでのジャムセッションが長引いて生まれたもので、僕たちはそのオリジナルバージョンが一番いいと思っていた。そこには形式に囚われない意識の流れが記録されていたからね。そんなわけで、この曲は完全に違うやり方で作られることになったんだ。

——今回思い切りパンク的な方向に振り切れてみたことで、あなたたち自身はどんなことを感じましたか? それはこれからの活動にも影響を与えると思いますか?

ゲイリー 「ファンが応援してくれるのは、あくまで僕たちが僕たちだからだ。決して僕たちがメジャーになったからじゃない」ということを発見できたのは、自分たちにとって素晴らしいことだったと思う。今回のアルバムは、ファンから本当に好意的に受け入れられているんだ。彼らは他に何の力も借りないで、このアルバムをイギリスチャートのトップ10に押し上げてくれた。それは僕たちにとって、すごく大事なことだよ。

5日間でアルバムを制作して、それがどのアルバムよりもチャートで上位に入ったなんて驚くべきことだと思う。大切なのは作品そのものでも、ラジオでもテレビでもメディアでもない。“スピリットを持つこと”と、“自分たちを理解してくれるファンがいてくれること”なんだと示してくれた。そのことに興奮しているし、ものすごい解放感があるよ。この成功がアルバムを作る時点で目指していたものじゃないっていうのはさっきも説明した通りで、だからこそ僕たちにとっても、他の人たちにとっても、大きな驚きだったんだ。

僕たちは、あらゆる音楽シーンや別のバンドとは同調しないように、これまでも最善を尽くしてきた。長年僕たちに影響を与えてきたバンドもいくつかあるけれど、それでも他の誰かみたいなサウンドは絶対に目指したくなかった。僕たちはただ、サウンドや美学とは関係なく、「クリブスらしい」と思えるレコードを作りたかっただけだったからね。

——そもそもこのタイミングでパンク作品をリリースすることについては、何か意味があると感じていますか? また、『24-7 Rock Star Shit』というタイトルの由来は?

ゲイリー およそ15年活動を続けて、それまでに6枚のアルバムをリリースしてきて、思うのは、自分の今の地位にある意味満足するようになるのは自然なことだし、むしろ少なくともこの仕事をしていれば満足するのは仕方がないということだ。音楽産業というのは、知ってのとおり非情で貪欲なところで、僕たちはそこで何年もうまくやって生き残ってきたし、くだらないことにも付き合ってきた――。だから、もう自由になってやりたいことをやってもいいんじゃないかと思うようになったんだよ。今回のアルバムは、短い時間で作り、あるがままの姿にそぎ落とした作品だけど、もしかしたら今までで一番気ままな作品かもしれないね。本当にただ自分たちの興味のために作ったアルバムなんだ!

ライアン タイトルは、以前スタジオで交わした会話が元になっている。僕たちの友人に、あるバンドに加入したやつがいるんだけど、そのバンドは自尊心と自尊心がぶつかり合うような環境だった。そいつに関して「週7日、24時間ずっと、カスみたいなロックスターを相手にしている」っていう話をしたら、それを聞いたプロデューサーがすごく面白がったんだ。で、後になって僕たちも、これは洒落たキャッチフレーズじゃないかと思った。

そのフレーズをTシャツにプリントしたらすごく受けたんだけど、アルビニの手がけるレコードのタイトルに採用されることをずっと狙っていたんだ。僕たちにしてはちょっと滑稽だし、侮蔑的な表現だけど、これがかっこいいと思ってくれる人もいると思った。まるでその人たちが週7日、24時間、ロックスターのように生きているというようにね!

——今回の“In Your Palace”のMV撮影時、カメラの前に立っているのは12秒ほどだったそうですね(笑)。実際に観てみると、ほぼ静止画なので逆にインパクトを感じたのですが、どんなアイディアからこのMVが出来たのかを教えてください。

ゲイリー うん、それこそがこのMVのコンセプトに込められた意図だね。ビデオを見た人は、ただのサンプル写真じゃないかと思うんじゃないかな(笑)。そうなれば、曲に集中してもらえるだろうと思った。そして最後まで観続けた人だけが、思いがけない結末を目にする! 僕たちは、ポップスターが前面に出てきて、美化したリアリティーを見せようとする、ぬるいビデオが大嫌いなんだ。たとえば、僕たちが敬愛するリプレイスメンツは、常に簡潔なビデオを制作して、中にはほとんどたいしたことが起きないものもある。このMVがそれと同じ精神を備えていたら嬉しいね。

The Cribs – In Your Palace (Official Video)

——あなたたちは低予算で制作したファースト『The Cribs』を経て、作品ごとにリッチな音も表現できるようなバンドに進化していったと思います。そんな今だからこそ、今回の作品には原点回帰するような感覚もあったはずです。結成当初と今とを比べてみて、変わったことと変わっていないことを挙げるなら?

ゲイリー さっきも言ったように、僕たちは色々な心配事をいったん脇に追いやって、昔のようなやり方に専念しようとした。バンドを始めたばかりで、誰も僕たちに対して先入観を持っていなかった頃のようにね。

それでも、曲作りの手順はデビュー当時とまったく同じなんだ。心構えや高揚感や価値観もまるで変わらない。唯一本当に変わったことと言えば、今では3人がそれぞれ別々の都市で暮らしているということ。そのために色々な変化が生まれたよ。けれど、自分たちがずっと持ち続けている情熱や決意は今でも変わらないんだ。

——今回の『24-7 Rock Star Shit』はライブが楽しみになるような作品ですね。この作品を引っ提げてのライブはどんなものになっていますか?

ライアン うん、実際もうすでに新曲の数々をライブで何度も披露していて、どれも演奏するのが楽しいよ。どの曲も本能的だからね。ライブの方がレコードよりも曲にパワーがあると思うし、観客も本当にいい反応を返してくれている。ライブは僕たちにとってはつねに変わらない重要な本分だ。そこでは情熱が一番重要であって、決しておざなりにやらないように、そしていつもステージでは予測不能でいなければならないと思ってるよ。

——最後に、これからのバンドに感じている可能性や、これからやってみたいことなどがあれば自由に教えてもらえると嬉しいです。

ライアン 正直なところ、遠い未来は見ないようにしているんだ。この瞬間にやっていることに集中する方がいい。過去を振り返るのがいいことじゃないというのと同じ意味で、僕らは、未来のことを計画するのもいい考えだと思わないんだよ。

それはもしかしたら、せっかく最高に盛り上がったときの決意を鈍らせることにもなりかねない。安全策を取ることに繋がるかもしれない。僕たちは多くのことを成し遂げてきたけれど、たとえばアリーナでヘッドライナーを務めたり、賞を取ったりというのは、決して最初から目指したことじゃなかった。本当にそれはバンドを始めたときの目標ではなくて、たまたま起こったことでしかなかった。だから、僕らはこれからも成り行きに任せるようにしていきたいね。 

RELEASE INFORMATION

24-7 Rock Star Shit

【インタビュー】ザ・クリブス 本能に従って制作された『24-7 Rock Star Shit』の裏側を明かす interview170907_thecribs_3-700x700

2017.09.06(水)
ザ・クリブス
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¥2,400(+tax)
※直筆サインデザイン・ステッカー、ボーナストラック1曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付

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text & interview by 杉山仁

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