けれども不思議と一貫するのは、その歌声/歌唱法がどんな楽曲の中でも変わらずスタンダードな魅力を放っているということ。たとえば同じ〈ブルーノート〉に所属するホセ・ジェイムズと比べると、その個性がよく分かる。他ジャンルを取り込んで軟体動物のように自身の声を変化させるホセ・ジェイムズとは対照的に、グレゴリー・ポーターの歌声は伝統的なジャズ/ソウル・マナーのど真ん中。つまり、ジャンルを横断して流動的に活動する開かれた精神と、(彼のヴィジュアル同様に)その中でも決して流れることのないどっしりとした声の強さこそが、グレゴリー・ポーターの最大の魅力なのだ。

大ブレイクを経てふたたび自身のルーツへ。最新作『希望へのアレイ』

そして今回完成した約3年振りの最新作『希望へのアレイ』は、これまで同様恩師カマウ・ケニヤッタがプロデュースを担当し、ツアーも共にするチップ・クロフォード(ピアノ)、エマニュエル・ハロルド(ドラム)、アーロン・ジェイムス(ベース)、佐藤洋祐(アルトサックス)、ティヴォン・ペニコット(テナーサックス)といった馴染みの面々が集結。他ジャンルとのコラボレーションによって自身の声を広く外へと連れ出したここ数年とは対照的に、彼本来のジャズ・シンガーとしての魅力がストレートに詰まっている。

Gregory Porter – Holding On

Gregory Porter – Don’t Lose Your Steam

ディスクロージャーのアルバム収録Ver.と比べてジャズ方向に大きくアレンジを変えた冒頭の“ホールディング・オン”はまさにその象徴。以降もビバップやアフロキューバン、モダンR&B、どっしりとしたバラードまで横断しながら、“ドント・ルーズ・ユア・スティーム”や“デイドリーム”といった3歳になる息子デムヤンに捧げた楽曲、恋愛について歌った楽曲、さらには母親や家族に捧げた楽曲まで、様々なテーマを横断しながら、改めてジャズ/ソウル・シンガーとしての自分に向き合っている。これには各地を転々とするツアー生活の反動から最近ブルックリンを離れて地元のカリフォルニア州ベイカーズフィールドに移り住んだという心境の変化も無関係ではないはず。また、アリシア・オラトゥヤのバック・ヴォーカルが魅力的な色をつけるタイトル曲“希望へのアレイ”(原題は「路地裏に連れて行ってくれ」)の歌詞には、彼自身も長らくテーマとしてきた黒人コミュニティや社会問題への言及も窺える。つまり本作は、<グラミー>を受賞して自身の音楽を様々な場所に連れ出した彼が、今一度様々なルーツに目を向けて作った作品なのだろう。

国内盤にはボーナストラックとして冒頭で挙げたケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』への参加も記憶に新しいレイラ・ハサウェイや、R&Bシンガー、ケムとのデュエットも収録。中でもレイラ・ハサウェイとのコラボレーションによってよりムーディーに生まれ変わった“インフィニティ”の息を飲むほどの美しさは、絶対にお見逃しなく!

RELEASE INFORMATION

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