長谷部「余っている時間の奪い合いがメディアなので、紙媒体はずっと奪われっぱなし」

宮沢 メディアの話が出たので、雑誌についてお聞きしたいんですが、長谷部さんは長年紙媒体に携わってきて、最近ウェブと両方を見る立場になられましたけど、最近の雑誌の傾向はどうですか?

長谷部 僕はまず学生の皆さんに聞きたいんですが、雑誌って買いますか?

(VOGUE、海外の雑誌などの回答が出る)

宮沢 ここは特殊クラスだから回答が違いますね(笑)。

学生 中、高校生の時は「セブンティーン」を読んでました。

宮沢 あ、そこは私たちの時代と変わらないんだ!

長谷部 影響力あるのは女性誌の方ですよね、やっぱり。男性誌の方が崩壊が早いんですよ。90年代後半までは週刊誌を除くと、10代を対象にした雑誌が一番多かったんです。ストリートファッションが全盛期だったから、「BOON」、「COOLTRANS」とか。裏原が出来る前の渋カジやスニーカー、ミリタリーが特集されて、5、60万部が普通だった時代ですよね。今は大人しか読まない雑誌ばかりになってしまって、10代が読んでる本で10万部超えてるものが1冊ぐらいしかないんです。いきなりシュリンクしちゃったから。

宮沢 分かります。私たちでさえ雑誌を買わなくなってしまっていますからね。

長谷部 でも、i-modeが誕生した時に雑誌は終わるという危機を感じたんですけど、ぴあがなくなるまでに10年掛かりましたからね。メディアというものは変わりにくくて、すごくコンサバティブなものだと思うんです。

余っている時間の奪い合いがメディアなので、紙媒体はずっと奪われっぱなしなんですよ。テレビが出て来た時にはテレビに奪われ、ゲームが出て来た時にはゲームに、その後にはインターネット、スマホってなっていきましたよね。結局、パッケージメディアだから、どうやって生き残っていくのかが大事ですよね。

宮沢 なるほど。確かに、保存版にしたいという様な付加価値のある内容が必要なんだろうなと思います。付録とかではなくて。

(ここで惜しくも授業終了のチャイムが鳴る)

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先生 時間になってしまったので、好きなことを仕事にしているお2人から最後にひと言お願いします。

宮沢 今の情勢では夢を持ちにくかったり、将来に不安を覚えることも多いと思いますが、そんなのは関係ないんです。とにかく何でも良いので、自分が好きだと思ったことや興味のあることをとことん追求していって下さい。そこから自分が進みたい道が見えてくると思うし、たとえ失敗したとしてもいくらでもやり直せます。毎日を楽しく過ごせる“何か”を見つけて欲しいと思っています。がんばって下さい。

長谷部 僕たちが時間とお金と労力を費やして得て来た情報を今の若者はすごく簡単に安く、得ることが出来る羨ましい時代だと思っています。ただで世界中の音楽が聴けるし。でも一方で、今の時代をうまく活用出来ている人は少ないという気もします。僕たちの時代にはいなかったすごい刺激的なコがいる中で、うまく泳いでるコと流されているコと二極化されていると思っています。だから、メディアをうまく消費して、楽しく生きて欲しいと思っています。

対談で講義という慣れない現場は時間配分が難しく、多くのことを伝えきれないまま終わってしまった。学生とのコミュニケーションもうまく出来なかったのは非常に申し訳ないと思った。しかし、対談終了後、すぐ次の授業に移動しなくてはいけなかったのに、メモを持って質問に来てくれた学生たちがいたことは本当に嬉しかった。

私はどこかで今の若者はベルリンなんて遥か遠くのよく分からない街に興味などないだろうと思っていた。クラブカルチャーに関しても同じである。しかし、それは私の中の今の日本の若者に対する偏見でしかなかった。少なくとも彼女たちは、自分の学生時代と比べても格段に将来有望であり、何より目がキラキラしていた。

文化服装学院の皆さん、長谷部さん、貴重な機会をありがとうございました!!

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長谷部 敦プロフィール

月刊『GoodsPress』前・編集長。現在はメディアプロデューサーとして、『GoodsPress』ほか、『&GP』『LARME』などに関わる。1994年徳間書店入社、20年近くになる雑誌編集者歴のほとんどをモノ雑誌の編集者として過ごした、業界でも数少ない純正・モノ雑誌編集者。2008年より月刊『BestGear』編集長。『GoodsPress』編集長を経て、今年10月より現職。
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