「バッシュ」≠「スニーカー」

スニーカーは誰のもの?映画『スニーカーヘッズ』を深堀り! film150819_sneaker_04

『エアマックス95』
写真提供:Nike. Inc

一方日本のスニーカー・ブームの先駆けとなったのは、『エアジョーダン』の発売から10年後の1995年、『エアマックス95』の登場だ。雑誌『Boon』などストリート・ファッション誌を中心に紹介され、30万円近い金額で売られていたり、多くの偽物が登場したり、さらに「エアマックス狩り」と呼ばれる盗難が頻発するなど、ストリートを愛する若者達の間で衝撃的な社会現象となった。また時を同じくしてリーボック社の「ポンプフューリー」も流行し、「ハイテクシューズ」としてスニーカー・カルチャーの流行を率先した。

ここで冒頭の話に戻ろう。“黒”のバッシュが受け入れられなかったのは、“部活”やスポーツに“理想的なルール”が存在しているからであろう。しかし自由な発想を求めた日本のストリート・カルチャーには、スポーツの発想はそぐわなかったと思う。日本ではスポーツとファッションはお互いに距離を置き、それぞれの呼び名を「バッシュ」「スニーカー」と同じ『スニーカー』なのに名前を変え、独特なカルチャーが形成されていった。映画の中でも、「日本は、スポーツとファッションの距離が離れている」、「マイケルジョーダンのエアジョーダンが好きでも、ファッションが好きでスポーツを見ていない人は多い。」という話が聞かれる。スポーツとファッションの乖離は、例えばスノーボーダーの國母和弘選手が、スポーツの祭典オリンピックでファッションの指摘を受けたことからも独特のカルチャーが発展していることが伺える。

“スニーカは単なる履物ではない”

映画は終盤に入り、スニーカーの将来を見据える。ルイ・ヴィトン、アレキサンダー・マックイーンやY3(アディダスとヨウジ・ヤマモトのコラボレーションブランド)など、オリジナルのスニーカーをコレクションで発表し、スポーツブランドとコラボレーションした商品を開発することで、スニーカーの影響力はハイブランドにまで浸透している。またテクノロジーの進歩により、入手困難なスニーカーを簡単に買うことができるようになった。貴重なシューズを探しに世界中を旅する必要性もなくなった点も大きな変化だ。

一方日本ではどうだろうか。映画では触れられていないが、現在第2のスニーカーブームと呼ばれ女性たちを中心に流行している。東日本大震災後のランニングブームや、ファッションモデルがワンピースにスニーカーを合わせたコーディネートを発表することで、一部のコアなファンを超えて「スニーカーとファッションの融合」が盛んに行われている。さらに、今年は『エアマックス95』が発売されて20周年の記念の年だ。ナイキ社が20周年記念モデルの『エアマックス95』の発売を、今月(8月)からスタートしたことは記憶に新しい。また視点を変えてみると、アジアの訪日観光客の中でオニツカタイガーの人気が非常に高い。1度や2度店舗を訪れた際に、あまりの観光客の多さに驚いた人もいるのではないだろうか。スニーカーの持つ力は文字通り国境を超えて、貴重なコミュニケーションツールとなっている。

「スニーカは単なる『履物』ではない。もはや、1つの大きな文化圏を作っている」。

熱狂的なスニーカーファンを描く『Sneakerheadz』。最も伝えたかったことは、スニーカーが繋ぐ「新しいカルチャーの提案」だと思う。

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『エアマックス95』20周年モデル
写真提供:Nike. Inc

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