ったく、この男の創作意欲はとどまることを知らない! ウータン・クランのメンバーによるユニット、ブラックナイツのプロデュース作を年始にリリースしたばかりのジョン・フルシアンテが『PBXファニキュラー・インタグリオ・ゾーン(以下、PBX)』以来のアルバムとなる『エンクロージャー』を完成させた!

今作のために人工衛星を打ち上げるなど、何やら規模がデカいプロモーション施策が話題を呼んでいるが、彼自身はどこ吹く風、普段と変わらぬ哲学的ともいえる作品作りへのアプローチ、職人気質な姿勢は健在。しかしながら本作に関して、本人からは『エンクロージャー』は『PBX
』から始まった僕の音楽による最後のメッセージだ。」という意味深な発言……。その真意はさておき、明らかに今作は彼の中ではひとつの区切りとなったとみてとれる内容だ。そんな重要作『エンクロージャー』をいくつかのフルシアンテの言葉と共にひも解いていきたい。

人工衛星でプロモーション!?

さて、『エンクロージャー』はいったいどんなアルバムなのか。こと音楽性に限って言えば、フルシアンテがこれまで挑戦してきた実験的手法と、レッド・ホット・チリ・ペッパーズを筆頭に披露されてきた彼ならではの哀愁深い美しいメロディが立ったものとなっており、端的な言い回しになればそれは文字通り彼のキャリアを包括した「集大成的作品」であるといえる。特筆すべきは冒頭曲“Shining Desert”、“Sleep”をはじめ、見事なヴォーカル・ハーモニー、ギター、ピアノの裏で小節ごとに展開していくドラムの拍子。つんのめるようなドラムンビートから細かく拍をかえて打ち込まれるリズム・セクションには、フルシアンテがこれまでに培ってきた音楽的実験が大胆に取り込まれている。すなわち、ドラム主体となるエレクトロ・ミュージックとの融合、そしてブラックナイツを手掛けたときに学んだヒップホップのポリリズミックな感覚だ。

「伝統的なソングライティングを非伝統的な方法でプロデュースするということがコンセプトだよ。ポップソングを書いたけどプロデュースの方法によって、全くポップ・ミュージックのコンテクストから外しているんだ。ここ30年間のエレクトロニック・ミュージックのプロダクション方法を使っているけどソングライティングは60年代や70年代のスタイルを継承している。伝統的な音楽の思考をモダンなエレクトロニック・ミュージックの思考と融合させたんだ。」

John Frusciante“Shining Desert”

シンガーソングライターでプログラマー。2つの役割を担うことができるフルシアンテはその両面の特性を均等に楽曲に注ぎ込もうと考えている(さらに言えばプロデューサー的観点ももつ)。前々作『PBX』で周囲を驚かせたフルシアンテのエレクトロニクス・ミュージックへの積極的傾倒は、新しい刺激・アプローチを求めていた彼にとって、これまでの音楽変遷のキャリアをさらにネクスト・ステージへと引き上げる上で必要不可欠だったに違いない。言い換えれば、自分がやってきたことを再解釈する試みでもある。最後に、今作『エンクロージャー』に寄せて、フルシアンテは下記のようにも語っている。

「音楽を作る行為は俺よりも大きな存在(音楽)の中に入り込んで包み込まれるような感覚なんだ。(アルバムのジャケット・カヴァーに関して)だから、自分の周りに円を描いたのは音楽を作ったり演奏しているときの自分が感じる“包み込まれる”感覚を意味している。」

John Frusciante“Sleep”

他者の音楽に触れ、深く理解することによりそのアーティストの心情も読み取れるのだというフルシアンテには、こうした“包み込まれる”感覚をリスナーに対しても感じてもらいたいのではないだろうか。そこで冒頭の一文「『エンクロージャー』は『PBX』から始まった僕の音楽による最後のメッセージだ。」に戻る。一見様々な事に手をだしているようにみえる彼の言動の一切はただひたすらに音楽探究への飽くなき情熱の他でもない。フルシアンテが何を感じ、何を伝えたいと思ったのか……。そのすべてのメッセージが彼の音楽にエンクローズ(封入)されている。さらに、日本盤『エンクロージャー』には、彼の考えを深く知ることができるロング・インタヴューが同封されているとのこと。今までの彼の音楽人生を総括したと言っても過言ではない本作、これは彼から音楽へのラヴ・レターに違いない。

(text by Yu Nakazato)


Release Information

Now on sale!
Artist:John Frusciante(ジョン・フルシアンテ)
Title:Enclosure(エンクロージャー)
※ボーナストラック+2、高音質Blu-spec CD2、超ロングインタビュー、歌詞対訳付
RUSH!×AWDR/LR2
DDCB-12533
¥2,263(tax incl.)