ダメ男についていく?

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宣伝担当の前野さん(奥)とヤング・ポールさん(手前)

ポール ゴシップネタとかドラックとか、生活が荒れている感じの人だってことは分かったんですけど、「実はそんな人ではなかった」って感じのドキュメンタリーですか? 世間のイメージとは違った、こんなナイーブな人だったっていう?

前野 そういう感じですね。ここにも書いてあるんですけど(映画のチラシを見ながら)、「わたしは、ただ歌いたいだけ」って。彼女は歌手になりたいわけではなく、ただ歌う場所があったら好き勝手歌っていたかった。けれど周囲が、彼女はすごい人だ、みたいになっていって。あと、彼女が小さいときに両親が離婚していて、ちょっと男性に依存してしまう。

ポール ほー!

前野 ちょっとダメ男に……。

ポール あーいいですね! ダメ男いいですね!

前野 ダメ男に引っかかってしまうという(笑)。

3人 (笑)。

前野 自分の経験を基に歌を作っていて、最初の歌も付き合っていた人と別れた時の歌です。女性から見ると、ほんとに男運がないんですよね。まず旦那さんがひどくて。彼のせいでドラック中毒に陥ってしまって。なおかつさっき話したように、小さい時に両親が離婚したんですけど、エイミーはパパを異常なくらいリスペクトしているんです。また、エイミーは依存体質で、旦那さんがいないとダメな人で。お互い常に一緒にいて自傷行為をしてしまう。一緒に破滅的になっていくんですけど、お互い依存してしまっていて離れられない。もう普通の人からみたら、絶対別れなさいよって思うんですけどね。

清野 そういう見方は初めてでした!

前野 これは結構女性的な見方ですね! 絶対別れなさいよって思うんです(笑)。友達もどんどんドラックやアルコールに溺れていくエイミーを見て、離れていくんです。そしてエイミーが正気を戻した時に、私なんてことをしたんだろうって。その時の留守電のメッセージなども映画に出てきます。お父さんもひどい人で、彼女が売れてから金儲けを始めて。

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前野さんの「ダメ男!」にまつわる話は止まりません(笑)。

生き返らせたドキュメンタリー映画

ポール 音楽のアーティストの死後発表されるドキュメンタリーって、結構あるじゃないですか。思い出せる限りでは、ダニエル・ジョンストンのドキュメンタリー『悪魔とダニエル・ジョンストン』を観たとき、彼を最初知らなかったんですけど、映画を見てキャラクターと歌が良くて、最後にはCD買いました。あと3年前くらいには、ア・トライブ・コールド・クエストっていうラッパーのドキュメンタリーがあって(『ビーツ・ライムズ・アンド・ライフ』)、映画を見てもっと好きになりました。ただ正直音楽系の死後ドキュメンタリー映画は、ネタが深掘りされないっていうパターンが結構あると思っています。いい所を見せて、周りのインタビューで構成したりするんですけどね。

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© 2015 Universal Music Operations Limited.

前野 そこが違うんですよ。このドキュメンタリー映画は、2015年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しているくらい折り紙付きで。作品の構成自体普通のドキュメンタリーとは違っています。例えば亡くなった人のドキュメンタリーでは、友人や知人の顔が見えてインタビューしていく形だと思いますが、そういうのが一斉出てこない。

ポール へー!

前野 エイミーの周りにいた人たちは、エイミーを亡くしたことに傷を負っていて、作品への協力を説得してもなかなか聞いてくれない……。最初のマネージャーのニックを説得するのに9ヶ月かかったそうです。ゴシップが耐えない人生だったので、「あなたたちはどういう気持ちで映画を撮るの」って言われて。その後、ニックが協力してくれるようになってから、色んな人が協力してくれるようになって。友達から友達にどんどんつながっていって、こんなエイミーの写真や映像もあるよってどんどん映像や写真が集まっていった。

ポール うんうん!

前野 約3年かけて3千時間!

ポール それって構成としては、素材を全部集めてから編集していくのか、『スーパーサイズ・ミー』みたいに、突撃でドキュメンタリーを作っていく感じですか?

前野 全編彼女の生きていた映像を集めた後に、それを観ながら両親や知人、レコード会社の人などが彼女のことを話していく形です。

ポール 映像を見ながらそれについて話している?

前野 そうですね。この時はこうだった、あーだったと映像を見ながら話していく。普通のドキュメンタリーとは違う感じですね。

清野 彼女が生き返ったような映画になっていたね!

ポール ほー! 亡くなった後に作る形のドキュメンタリー映画は、企画自体が難しいところがあるけど、そういう一般的なイメージではないんだね。

清野 そうですね。そういう意味でもまったく新しいドキュメンタリー映画だと思った。

ポール なるほど!

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